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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)10785号 判決

原告

第一火災海上保険相互会社

ほか一名

被告

唐津福水急送株式会社

主文

1  被告は、原告第一火災海上保険相互会社に対し、金一二五万四四八九円とこれに対する昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告宮内一郎に対し、金一〇四万五五〇〇円とこれに対する昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

5  この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告第一火災海上保険相互会社に対し、金一四七万五八七〇円とこれに対する昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告宮内一郎に対し、金二五三万円とこれに対する昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年四月四日午後三時五五分

(二) 場所 神奈川県海老名市杉久保八八七、東名高速道路下り32・IKP号先第三通行帯

(三) 加害車 自家用大型貨物自動車(佐八八か三四一、以下、被告車という。)

右運転者 訴外宮崎毅(以下、訴外宮崎という。)

(四) 被害車 自家用普通乗用車(メルセデスベンツSL四五〇、品川三三て四〇三七、以下、原告車という。)

右運転者 原告宮内一郎(以下、原告宮内という。)

(五) 態様 原告車が、右場所付近を時速九〇キロメートルで走行中、被告車が原告車の進路前方二、三メートルに割り込み進入して来たので、被告車の前輪と後輪の間に吸い込まれそうな危険を感じ、急制動の措置をとつたところ、中央分離帯の縁石に自車右フロントを衝突させ、その反動で一回転しながら、道路左のガードロープ、縁石に自車右側を衝突させた。

2  責任原因

被告は、その従業員である訴外宮崎が前記被告車を前記日時場所において被告の業務執行として運転中、訴外宮崎における高速道路の車線変更に際し直進車の進行を妨げずに安全に変更すべき注意義務に違反した過失により本件交通事故を惹起し、後記権利侵害及び損害を生ぜしめたのであるから、使用者として民法七一五条に基づく損害賠償義務がある。

3  権利の侵害

原告宮内は、本件交通事故により原告所有の前記自動車の右フロントフエンダー、右リアーフエンダー等を大破され、その所有権を侵害された。

4  損害

(一) 修理代等

原告宮内は、本件交通事故により原告車が大破されたので、酒井自動車こと訴外酒井順司(以下、訴外酒井という。)に右車両の牽引及び修理を依頼し、修理代等合計金一五〇万五八七〇円(〈1〉 部品代、金一一三万五〇七〇円、〈2〉 工賃、金三三万〇八〇〇円、〈3〉 牽引費、金四万円)の支払を余儀なくされ、内金三万円を自ら支払つたほか、残金一四七万五八七〇円は後記のように原告第一火災海上保険相互会社(以下、原告会社という。)において訴外酒井に支払いを了した。

(二) 評価損

原告宮内所有の原告車は、本件交通事故により大破され修理完了はしたが、事故後のその財産的価値は金四〇〇万円(訴外財団法人日本自動車査定協会査定士訴外太田滋民査定)となつた。しかし、原告車の事故前の事故日当時におけるその財産的価値は金六五〇万円であつたのであるから、その差額金二五〇万円が原告車の評価損となる。

5  保険契約

原告会社は、昭和五五年三月二四日、訴外宮内よしのと次の車両保険契約を締結した。

(一) 保険の目的 原告車

(二) 被保険者(右所有者) 原告宮内一郎

(三) 保険金額 金五〇〇万円(金三万円までの損害は免責)

(四) 保険期間 昭和五五年三月二四日から同五六年三月二四日迄

6  保険金の支払

原告会社は、昭和五五年八月三〇日、前項記載の保険契約に基づき、原告宮内に対し前記損害(修理代等)を填補するため保険金金一四七万五八七〇円を支払つたので、原告会社は右金額の限度内で、原告宮内が被告に対して有する金一四七万五八七〇円の損害賠償請求権を保険者代位により取得した。

7  結論

よつて、原告会社は被告に対し本件不法行為に基づく損害賠償金一四七万五八七〇円とこれに対する保険金支払日の翌日の後である昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告宮内は、被告に対し、同じく修理代等金三万円と評価損金二五〇万円の合計金二五三万円とこれに対する不法行為日の後である昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで右同様年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実中、(一)ないし(四)は認め、(五)は否認。

2  同第2項の事実中、訴外宮崎の過失は否認し、その余は認める。

3  同第3項の事実は不知。

4  同第4項(一)の事実は不知、(二)の事実は不知ないし争う。

5  同第5項の事実は不知。

6  同第6項の事実は不知。

三  過失相殺の抗弁

被告車は、本件事故日時ころ、前記場所付近で進路変更の合図をし、原告車との距離を確認したのちに第二通行帯から追越車線に進路を変更したのであり、原告は前方不注視及び速度違反等の過失があつたのであるから、大幅な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(事故の発生)、(一)日時、(二)場所、(三)加害車、右運転者、(四)被害車、右運転者の各事実は当事者間に争いがない。

二  次に、事故の態様及び運転者の過失について検討する。

いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、同乙第一号証の一ないし四、原告宮内一郎本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したと認められる甲第三号証及び同第一二、第一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証、証人宮崎毅の証言により原本の存在と真正に成立したことが認められる乙第四号証、証人宮崎毅の証言(但し、後記採用しない部分を除く。)及び原告宮内一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場付近は、東名高速道路下り線で第一ないし第三通行帯(第三通行帯は追い越し車線である。)に分れ、左端はガードレール、右端は中央分離帯のある直線の道路上である。

2  訴外宮崎は、被告車(箱型冷凍車、車長約一一メートル、車高約三・八メートルの一〇トン車)を運転して、本件事故現場付近の第二通行帯を時速約九五キロメートルで走行していたが、追越車線に入るためその旨の方向指示機を出し、追越車線上を後方から進行中の原告車を認めながら安全にその前方に進入できると速断してハンドルを右に切つて追い越し車線に入り、そのまま同車線を直進していたところ、他車から本件交通事故の発生を教えられ、始めて同事故を知つた。

3  原告宮内は、本件事故現場付近の追い越し車線を助手席に女性を同乗させて原告車(メルセデスベンツ、右ハンドル)を運転して時速約九〇キロメートル強の速度で進行中、急に被告車が進路前方に入つて来たので、同車前後輪の間に入り込むものではないかと感じ、急制動の措置をとつた結果、右側中央分離帯に自車右側を激突させ、その反動で斜め前方に一回転しながら滑走し、左端ガードレールに自車を衝突させて停車した。原告宮内は、事故直前ころ、被告車の存在とその動静については何ら知らなかつた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人宮崎毅の証言部分は前掲各証に比照して措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実によれば、訴外宮崎には本件交通事故の発生につき、原告車との車間距離を確実に認識したうえで安全に車線変更をなすべき注意義務に反した過失があるといわなければならない。

他方、原告宮内には、本件交通事故の発生につき、追い越し車線を走行するに当り、走行車線から追い越し車線に進入する車両の有無などにつき前方を注視して走行すべき注意義務に反した過失があるというべきである。したがつて、原告宮内の右過失は、損害額の算定に際し被害者の過失として斟酌するのが相当であり、右過失相殺による減額の割合は一五パーセントとするのが相当である。

三  被告の従業員である訴外宮崎が、前記被告車を前記日時場所において、被告の業務執行として運転中、本件交通事故を惹起したことは当事者間に争いがない。そして、訴外宮崎に右認定のような過失があり、後記権利侵害及び損害があるので、被告は使用者として民法七一五条に基づき使用者として損害賠償責任を負う。

四  前掲甲第二号証及び同第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第五号証及び原告宮内一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告宮内は、本件交通事故により同原告が所有する原告車のパネルグループ、サスペンシヨンまわり、ホイルタイヤ、フレーム、メンバーステアリング、リヤーバンバー、フエンダー、トランクリフト、テールランプ等を破損させられ、その所有権を侵害された。

五  原告は、本件事故により右権利侵害を受け、これにより一個の物的損害を被り、これを構成し右侵害と相当因果関係のある損害項目とその金額は次のとおりである。

1  修理費等

前掲甲第四号証及び同第一二号証と成立に争いのない甲第一四号証及び原告宮内一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告宮内は、原告車の修理及び牽引を酒井自動車こと訴外酒井順司に依頼し、同訴外人に対し右作業等に対する修理代等合計金一五〇万五八七〇円(〈1〉部品代、金一一三万五〇七〇円、〈2〉工賃、金三三万〇八〇〇円、〈3〉牽引費、金四万円)の債務を負担した(うち金一四七万五八七〇円は後記認定の保険金をもつて支払つた。)ことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると金一二七万九九八九円(一円未満切捨)となる(原告宮内の負担する内金三万円の債務については金二万五五〇〇円となり、原告会社が後記認定のように保険者代位するのは金一四七万五八七〇円のうち金一二五万四四八九円となる。)。

2  評価損

原本の存在とその成立に争いのない乙第六、第七号証、原告宮内一郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第五号証、同第七号証、同乙第五号証並びに証人新楽昭弘の証言と弁論の全趣旨を総合すると、原告宮内所有の原告車は、本件交通事故前の事故日当時におけるその財産的価値は登録落ちその他によるも金五二〇万円を下廻ることはなく、また、修理を終えた本件事故後における同原告所有にかかる同車の財産的価値は金四〇〇万円と認めることができ、右認定に反するかにみえる乙第五号証の一部記載部分は原告宮内が所有する原告車に関する事実関係を正確に反映しているものではない結果、右認定を左右するに足るものではなく、他に右認定を左右する証拠はない。したがつて、原告宮内が被つた損害は、事故前の右自動車の右財産的価額と事故後の右財産的価額との差の金一二〇万円が評価損であると認められる。

右金額に前記過失相殺による一五パーセントの減額をすると、金一〇二万円となる。

六  成立に争いのない甲第一一号証及び原告宮内一郎本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告会社は、昭和五五年三月二四日、訴外宮内よしのと左記内容の車両保険契約を締結したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(一)  保険の目的 原告車

(二)  被保険者(右所有者) 原告宮内一郎

(三)  保険金額 金五〇〇万円(但し、金三万円までの損害は免責)

(四)  保険期間 昭和五五年三月二四日から同五六年三月二四日迄

七  前掲甲第四号証、同第一二号証、同第一四号証及び原告宮内一郎本人尋問の結果を総合すれば、原告会社は、昭和五五年八月三〇日、前項記載の保険契約に基づき、原告宮内に対し前記損害(修理代等)を填補するため保険金金一四七万五八七〇円を支払つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。したがつて、原告会社は前記過失相殺により減額された金一二五万四四八九円の損害賠償請求権を保険者代位により取得した。

八  よつて、原告会社は被告に対し損害賠償金一二五万四四八九円とこれに対する保険金支払日の翌日の後である昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告宮内は被告に対し損害賠償金一〇四万五五〇〇円とこれに対する本件不法行為日の後である昭和五五年一〇月一八日から支払ずみまで右同様年五分の割合による遅延損害金の支払を各求める限度で、本訴各請求は正当であるので認容することとし、その余は失当としていずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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